三日月てんびん_02_よるかぜ

君は、

知っているかな。


危ういバランスの中で、


その感触だけが、

全て

なんだよ。


それは

ある

冬の日のこと。


僕は

日課の

光やりを

していた。


僕らの

微妙な

バランス調整により、


惑星と

三日月の設置点は

ほぼ変わらない。


そのため

惑星は、


その点を通って

三日月と

垂直に

軸を持ち、


コマのように

くるくると

自転している。


惑星の下半分は

ほとんど

太陽の光が

当たらないので、


人々は

日の当たる

上半分に

暮らしている。


しかし、

そうはいっても


三日月の

尖った部分で

太陽光は

ほぼ遮断されてしまうので、


僕が

世界に

光を与えている。


世界の顔に

満遍なく

ライトを当てて、


元気になあれ、

元気になあれ


と願いながら。


まるで、

植物に

水をやるように。


+++


冬の

夜更けだから


少し硬めの、

ひんやりとした

灰色の細い光で


世界を

撫でていく。


もちろん

同時に、


凍えていたり

寒がっている人が

いないか、


目を凝らして

確認する。


木枯らしの抜ける

王宮、


まだ目覚めない

灯台、


そして、


やっと

眠りについた

城下町。


いつもなら

ここで

巡視を終えて


皿の縁に

ライトを固定し、


一息ついて

朝の読書に

入るのだけれど、


今日は

少し

様子が違った。


城下町の中心に

据えられた

大衆劇場。


その裏口で、

三角座りをしている

男の子が

目に留まる。



その目は

潤み、


下唇を噛んで

肩を震わせていた。


ああ、

あの子は

芸能集団の新入りだ。


確か

一週間前、


「革命児・突如あらわる!」


と大きく報道され、


世界的な

トップニュースとなって

一躍有名人になった。





世界の人々には

温かく

迎えられたようだけれど、


芸能の世界には

きっと、

色々なことが

あるのだろう。


僕は

近くにいた星に、


反対側の彼への

言づてを頼んだ。


「風を少し、

 弱めてほしい」


せめて

少しの間だけでも、


身を切る寒さを

しのげるように。


+++


このように、

僕と同じく、


反対側の彼は


世界に

風を送る仕事を

担っている。


春の陽気を演出するために

そよ風を

吹かせたり、


静かな夜空に

蛍火をともす

遊びをすることもあるから、


お互い

メイン機器の他に


小さな送風機や

ライトを

持ち合わせてはいるものの、


基本の

世界管理は


僕が昼・彼が夜

の担当だ。


気付けば、

冷えきった夜風は


穏やかな

朝方の空気に

変わっていた。


彼は

見かけに寄らず、

とても繊細な

仕事をする。


僕らは直接、

人に関わることは

出来ない。


人のセカイに、

僕らはいない。


だから

こうやって、


ささやかに

環境を

調整することで、


人々に

少しでも

安息を与えられたら。


そんな思いで、


僕は今日も

ライトにはめる

レンズの色を

選んでいる。


+++


僕のセカイは、

この皿の上と、

愛すべき

小さな惑星だ。


この認識は

きっと、


残念ながら、


反対側の彼とは

違うものだと思う。


それでも

今回のように


彼が

約束を

守り続けて、


僕のわがままに

付き合ってくれるのなら、


僕は

自分のセカイに

誠実でありたい。


セカイに対する

認識の違いも、


そして

ふたりの約束も、


全ては

この世界の

はじまりに

生まれた。


突然

僕らに

突きつけられた

二者択一の難問と、


それに対する

僕の決断は、


本当のことを言うと、


正しかったのかどうか

自信が無い。


危ういバランスで存在する

この世界と同じように、


僕らの約束だって、

いつ崩れるか

分からない。


でも、


彼は

こうやって、


柔らかな風を

運んでくれる。


頬を撫でる

この感触だけが、


今、


僕の信じられる

全てだ。


三日月てんびん / IROKACOLORIS

イロカクロリ -creator iroka's portfolio

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